遺伝に関する用語
遺伝子 | ヒトのからだはさまざまなタンパク質からできています。そのタンパク質をつくる設計図となるのが遺伝子です。例えば,BRCA1とBRCA2はがんを抑制する働きをするタンパク質で,このタンパク質をつくる設計図(BRCAの遺伝子)がそれぞれ17番染色体と13番染色体に存在します。ヒトの場合,遺伝子は約2万種類あるといわれています。遺伝子の設計図がある塩基配列部分をエクソン,遺伝子以外の領域の塩基配列をイントロンといいます。 |
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DNA・ 塩基配列 |
からだの設計図の本体はDNA(デオキシリボ核酸)です。DNAは4種類の塩基(A:アデニン,G:グアニン,C:シトシン,T:チミン)が長く連なってできています。この塩基の並びを塩基配列といいます。この塩基配列の所々に遺伝子があります。 |
ゲノム | DNAの塩基配列に表された遺伝情報すべてのことをゲノムといい,約32億の塩基対があるといわれています。このうちタンパク質の設計図となる部分を遺伝子といいます。 |
ゲノム 不安定性 |
細胞分裂中に発生するDNA突然変異(変化)やゲノムの変化が増加することで,多くのがんでこのような状態が発生しています。例えばBRCA病的バリアント保持者のがんでは,正常な相同組換え修復がうまくいかないことで,細胞全体で染色体の欠失や増幅が増加するようなゲノムの変化が増加することがわかっています。このようなゲノムの変化を測定したものをPARP阻害薬のコンパニオン診断として使用しているのがMyChoiceという検査です。 |
染色体 (常染色体) |
遺伝情報がつまったDNAが太く折りたたまれたもので,子孫に伝えられる性質(形質)が存在しています。ヒトの場合22組44本の常染色体と,1組2本の性染色体があり,その大きさ順に1~23番の番地がつけられています。性染色体は性別にかかわる染色体で,X染色体とY染色体があります。 |
常染色体 顕性遺伝 (優性遺伝) |
常染色体の遺伝子はぺア(2本ずつ対)で存在します。それは父親と母親からそれぞれ受け継いだ遺伝子です。変化を保持する遺伝子を1本受け継いだときに発症する遺伝の仕方を顕性遺伝(優性遺伝)といいます。両親のどちらか片方が変化のある遺伝子を保持する場合,性別に関係なく50%の確率で子どもの世代にその遺伝子が受け継がれる可能性があります。遺伝子は,世代を飛び越えて受け継ぐことはありません。例えば,祖母が病的バリアントを保持していて,その子どもの世代が誰も保持していない場合,祖母の遺伝子の変化(病的バリアント)が子ども世代を飛び越えて孫世代に受け継がれることはありません。 |
バリアント | 遺伝子の変化がみられることをいいます。病気の原因とならない「良性」,おそらく病気の原因とならないと考える「良性疑い」,遺伝性の病気を引き起こす原因となる「病的」,おそらく遺伝性の病気を引き起こすだろうと考える「病的疑い」,現時点では「良性(疑い)」と「病的(疑い)」の判別がつかない「意義不明(=VUS)」に分けられます。良性と良性疑いを「陰性」,病的と病的疑いを「陽性」という言い方をするときもあります。 |
遺伝性腫瘍症候群 | ある特定のがんになりやすい遺伝的な体質をもつことです。多くは,1種類のがんだけではなく,複数のがんや,がん以外の症状を伴うため「症候群」と呼ばれます。 |
生殖細胞 | 卵子,卵細胞,精子,精細胞など遺伝情報を子どもの世代へ伝える役割をもつ細胞のことです。生殖細胞にある遺伝子の変化は,子どもの世代に受け継がれる可能性があります。 |
体細胞 | 生殖細胞以外のすべての細胞を指し,体細胞にある遺伝子の変化は,子どもの世代に受け継がれることはありません。 |
未発症者・ 既発症者 |
がんを発症された方を「既発症者」,がんを発症されていない方を「未発症者」といいます。 |
全エクソーム解析 | ヒトの遺伝子(約2万種類)の全設計図を調べる検査です。遺伝性腫瘍以外の遺伝子についても調べます。 |
全ゲノム検査 | エクソン(遺伝子のある所)とイントロン(遺伝子以外)の全塩基配列をすべて調べる検査です。イントロンは,遺伝子の直接的な設計図ではありませんが,まれにこの部分のDNAの変化が病気に関連することがわかっています。 |
次世代 シークエンス技術 |
2000年代に登場した,新しい遺伝子解析技術です。複数のヒトの,複数の遺伝子を同時に速く効率よく調べることができるようになりました。 |
診断や治療に関する用語
臨床試験・治験 | 患者さんあるいは健康な方にご協力(参加)をいただき,効果があると期待される新しい薬,手術,放射線治療などの治療方法や診断方法などについて,従来の方法と比べてどれくらい効果があるのか,安全なのか,ということを調べること(試験)を「臨床試験」といいます。臨床試験の中で,厚生労働省から薬,医療機器として製造販売の承認が得られることを目的として行われるものを「治験」といいます。治験は臨床試験の一種です。 |
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標準治療 | すでに行われたたくさんの臨床試験の結果をもとに,専門家が集まって検討を行った結果,最善であるという合意が得られた治療法のことをいいます。これらの合意された内容をまとめたものが「ガイドライン(治療指針)」です。現時点で,患者さんに最も効果が期待でき,安全性も確認された,最善の治療ということになります。 |
生検 (生体組織診断) |
病変の一部を採取して,顕微鏡で詳しく調べる(病理)検査です。手術や内視鏡検査時に採取したり,体外から細い針を刺して採取したりする方法があります。がんかどうかの診断や,がんの性格・悪性度・広がりの範囲など,治療に必要な情報を得ることができる検査です。 |
コンパニオン診断 | ある薬が,患者さんに効果があるかどうかを,治療前にあらかじめ検査することです。PARP阻害薬は乳がん,前立腺がん,膵がんの方のうち,BRCA1/2病的バリアント保持者に対して効果が期待できるため,治療前にBRCA1/2遺伝学的検査をコンパニオン診断として行います。 |
予後 | 病状や治療など,今後どのような経過をたどるのかを予測する,医学的な見通しのことです。 |
NCCN ガイドライン |
米国の主要ながんセンター(28施設)により策定された世界的に広く利用されているがん診療ガイドラインです。遺伝性のがんに関するガイドラインもあり,HBOCの内容は,「Genetic/Familial High-Risk Assessment:Breast,Ovarian and Pancreatic」(遺伝性/家族性のハイリスク評価:乳がん,卵巣がん,膵がん)の版を中心に扱われています。内容は年1回以上の頻度で更新されています。NCCNはNational Comprehensive Cancer Networkの略。 |
その他の用語
グリソンスコア | 前立腺がんにおける形態学的な分類法で2~10の9段階で評価され,点数が高いほど悪性度が高いと評価されます。近年,より臨床に即し,患者さんにも理解しやすいようにグリソンスコアの各群を5段階にグループ化したグレードグループ分類が提唱され,併記されるようになってきています。 |
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IMPACTスタディ | BRCA遺伝子に病的バリアントを保持する方を対象として前立腺がんを早期に発見できるよう,40歳から,より低いPSA値3.0ng/mLからのPSAによるサーベイランスの有効性を検証する研究です。IMPACTとはIdentification of Men with a genetic predisposition to ProstAte Cancer Targeted screening in BRCA1/2 mutation carriers and controlsの略です。 |
PROfound試験 | 転移性前立腺がんに関して,腫瘍組織におけるDNA修復経路関連遺伝子に病的バリアントがあった最近承認された新規アンドロゲン経路阻害薬(エンザルタミドまたはアビラテロン)で再発した患者さんを対象として,PARP阻害薬オラパリブの有効性を検証した試験です。腫瘍組織の変異を調べているため,遺伝子の病的バリアントのみならず,がん細胞だけの遺伝子の病的バリアント症例を含んだ患者群となっています。 |
本文中に用いた略語
BIA-ALCL | breast implant-associated anaplastic large cell lymphoma | 乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫 |
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BRRM | bilateral risk-reducing mastectomy | 両側リスク低減乳房切除術 |
Bt | total mastectomy | 乳房全切除術 |
CAPS | International Cancer of Pancreas Screening | |
CRRM | contralateral risk-reducing mastectomy | 対側リスク低減乳房切除術 |
DNA | deoxyribonucleic acid | デオキシリボ核酸 |
DTC | Direct-to-Consumer | 消費者向け |
EUS | endoscopic ultrasonography | 超音波内視鏡 |
HBOC | hereditary breast and ovarian cancer | 遺伝性乳がん卵巣がん |
HER2 | human epidermal growth factor receptor 2 | ヒト上皮増殖因子受容体2型 |
HRD | homologous recombination deficiency | 相同組換え修復欠損 |
MGPT | multigene panel testing | 多遺伝子パネル検査 |
MRCP | magnetic resonance cholangio pancreatgraphy |
磁気共鳴胆管膵臓造影検査 |
NCCN | National Comprehensive Cancer Network | 全米総合がん情報ネットワーク |
NSM | nipple-sparing mastectomy | 乳頭温存乳房全切除術 |
PGT-M | preimplantation genetic test for monogenic | 着床前診断 |
PSA | prostate-specific antigen | 前立腺特異抗原 |
RRM | risk reducing mastectomy | リスク低減乳房切除術 |
RRSO | risk reducing salpingo-oophorectomy | リスク低減卵管卵巣摘出術 |
SSM | skin-sparing mastectomy | 皮膚温存乳房全切除術 |
STIC | serous tubal intraepithelial carcinoma | 漿液性卵管上皮内がん |
VUS | variant of uncertain significance | 臨床的な意義が不明の変化 |